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普遍化していくこと、現代、現在の音楽について


皆さまこんにちは。ピアニスト石川武蔵です。

毎年楽しみにしている「今年の新語」、2016年版が発表されました。大賞は「ほぼほぼ」。

自分の周囲でも使う人が増えてきて、流行りだして来ていると思います。毎年色々な

新語が採用されて、知らない言葉もあったりして楽しいですね。

2位には「エモい」が採用されました。この言葉は確か2007年か2008年頃にインターネット

上に登場してきた言葉で、当初はある一定の界隈で「感傷的過ぎる表現を揶揄する」意

味で使われていたのですが、数年の時を経て変質し、半ば肯定的に使われるようになって

きたと思います。この言葉が選ばれていたことがこの記事を書くきっかけになりました。

かつての「壁ドン」なんかもそうですけど(元はアパートで煩い隣人に向けて抗議の意を込

めて壁を殴る行為)、新しい言葉がある一定のラインを越えて流行するとき、どこかのタイ

ミングで意味の変質が起きているのかもしれません。普遍化の為のプロセスというか。

きっと演奏にもそういうことがあって、一定の奏法や解釈が流行するにあたって先駆者の

狙いとは違ったものが伝えられていき、寧ろ先駆者こそが異端となってしまうようなことが

あるのだろうなと。

音楽という芸術は基本的に後追いで、哲学や絵画、文学が生み出されて、それらの作品に

対してインスピレーションを受けた作曲家の作品に感銘を受け、演奏家が準備をして演奏

するという順番が決まっていますからどうしても「現在」に対してタイムラグがあります。

所謂現代モノの定番レパートリーって数十年前の作品だったりするんですよね。どこら辺が

現代なんだろうと思ったりもしますが。そういうものと言われてしまえばそれまでですが、

もう定番である時点で古典なのではないかという風に感じています。

数十年前の作品を現在再演することって、もはや時代を経て批評的目線を持った演奏に

なるので初演としてやるのとは意味が変わってきてしまうし、そのあたり「現代音楽と現在

呼ばれているもの」の難しさというか、限界を感じることがあります。

この時代に生きているからには現代、現在の作品をどんどん弾きたい欲求があって、それは

やはり現在のものであるからこその得られる体験を、所謂クラシックしか聞かない人々や、

クラシック音楽という冠を敬遠している人々に伝えていきたいという考えが根底にあります。

ただ新しいものを採り上げるとお客さんが全然入らなかったりするのでその辺の採算をどうにか

するスキームを考えなきゃいけないですけど。現在は権威づけする方向で進んでいっている

気がしますが、お客さんと権威とはあまり関係ないような気がします。体験として面白いか

どうかだと思うんですよね、リピーターになるかどうかっていうのは。

僕個人としては、所謂クラシック音楽と現代音楽の間に特に線引きは必要なくて、結局は同じ

ものだと思ってやっていますから、世の中もそのうちそうなっていくと良いですね。同業の

皆さん、頑張ってやっていきましょう。クラシック愛好家の方々も、是非色々聴いてみてください。

思ったよりとっつきやすいものだと思います。現代音楽は現代美術などとは違って、前提

となる文脈を把握せずとも充分に楽しく鑑賞できる代物ですから。

では皆様、また次回のブログまでさようなら。

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